2004 Gryphonfest 出展作品
赤リンゴと青リンゴ
※ミーノス×アイアコスです
 




絶対風邪など引かないだろうナンバー1の男が風邪で寝込んで一日が経った。

・・・訂正だ。この冥界には風邪を引きそうな輩など誰一人いそうにない。こいつの部下あたりは貧弱そうだがな。

しかし、いくら我が儘で強引で何を考えているかさっぱり分からないこの男も、実は繊細な体つきなのだ。・・・言い過ぎか?



そんな困ったやつの部屋へ、オレは足を踏み入れた。





バン!


「おい、ミーノス、まだ生きているか!」


廊下の従兵共が天下の三巨頭の一人に滅多な口を利く男に身震いしながらざわめいた。そんなことなど耳にも入れず、天雄星の男はズカズカと部屋へ入り込んできた。

「・・・相変わらず騒々しい男ですね、アイアコス。」

「なんだ、眠っていたのではなかったのか。」

アイアコスはひょい、とベッドを覗き込んだ。開けっ放しにされていた扉は従兵によって静かに閉じられていた。この男の辞書に、扉を閉める、という文字言葉はないらしい。

「あなたの賑やかな登場に目が覚めたところです。それに今の質問は少し食い違いがありますよ。」

「あん?何を訳の分からんことを言っている。」

ミーノスは目を瞑ったまま心の中で笑った。相変わらず面白い男だと思う。


「ん?何か・・・香りますね。」

そう言ってミーノスは目を開けた。

「ああ、・・・見舞いのリンゴだ。」

「あなたが?私に?」

「・・・持っていけと渡されたんだ。」

「ほぅ・・・それは。」

アイアコスは持っていた紙袋をドン、という震動と共にテーブルへ置いた。その音と紙袋の大きさが、リンゴの数を示している。とても一人で食べきれる数ではないだろう。


ガサガサ・・・

シャリ――!

もぐもぐ・・・

「あー・・・アイアコス。」

「む?なんだ?シャリシャリ・・・。」

ミーノスは半ば呆れたように口元を歪めながら言った。

「一つ聞きたいのですが、あなたは今、あなた自身が口にしている“それ”は“見舞いのためのもの”だと、私は先ほど聞いた気がするのですが・・・空耳でしたか?」

アイアコスは二口目をかぶりつこうと口を開けたままピタリと止まり、ミーノスに目を向けた。
 


「あぁ。悪かった。」

ミーノスは口元を緩ませる。通じたようだ。


「お前も食べるか。そら。」


ぽいっ

「・・・・・・。」

投げられたリンゴは、綺麗な湾曲を描き、ミーノスの腹の上に落ちた。

「・・・・・・。」

真っ赤なリンゴ。とても新鮮で、食をそそる光り具合だ。そしてシャリシャリと遠くから聞こえる歯切れのよい音。

「アイアコス。」

「シャリシャリ・・・ごくん。ん?おい、どうした、食べないのか。美味いぞ!」

極めつけがこの天然の笑顔だ。どうやら通じてはいなかったらしい。まだまだこの男の思考を全て把握するには修行不足のようだ。


「くっくっ・・・アイアコス、あなたには参りました。分かりました。ありがたく戴くとしましょう。」

「?シャリシャリ・・・。」

アイアコスは二つ目のりんごをかじりながら首をかしげた。





5分後。


「バカを言うな!」

病人のいる部屋で耳をつんざく声が響き渡る。

三巨頭のうちの二巨頭同士の喧嘩が始まると思いきや、怒鳴っているのは片方だけで、もう一方は笑っていた。


「こっ、このアイアコスにリンゴの皮を剥けだとおぉ・・・!?」

「見舞いに来た以上、それはあなたの役目だということは当然ですよ。」

「そのようなこと!そこら辺のヤツらにやらせればよかろう!」

「おや?まさかアイアコス、あなたはリンゴの皮剥きができないというのでは・・・。」

「このアイアコスにできぬことなどないわ!た、ただ面倒なだけだ・・・!そういった細々とした作業はお前の得意分野だろう。自力でやれっ。」
 

 


「顔が紅潮していますよ。まるで・・・このリンゴのような色ですね。ふふ。」

「無駄口を叩けるほど元気があるならオレは帰る!ちっ、せっかく地上までわざわざ出向いて仕入れてきてやったというのに!とんだ足労だ!」

「・・・・・・・。」

「む・・っ、だいたい、リンゴなど皮を剥いて食べるような物ではなかろうが。オレは今まで生きてきて皮を剥いて食べるような境遇に出会ったことがないんでな。悪いがその考えは理解できん。」

ちら、とミーノスを覗き見る。

「・・・・・・。」

ムカ

「・・・・・・。」

ムカムカ・・・

「・・・・・・。」

ムカムカムカ!

ダン!

壊れそうなほどの勢いで枕元の椅子に腰掛ける。

「ああくそ!剥けばいいのだろう!剥けば!そら貸せ!言っておくがな!四等分しかせんからな!お前の口が小さかろうとそれ以上は望むなよ!いいな!」

アイアコスはミーノスの手からリンゴを奪い取り、ベッド脇に置いてあった果物ナイフを手に取った。

「アイアコス。」

「話しかけるな!気が散る!」


「ありがとう。」


アイアコスはピタリと動きを止め、不思議な物体を見るような顔つきでミーノスを振り返った。

ニッコリ

「“渡してくれと言われた”のは嘘で、“アイアコス自らのプレゼント”だったのですね。」

「・・・・・・。」

「ふふ。」

「・・・・・・なっ!」

ボンッ!

アイアコスの顔はまたリンゴのように赤くなった。

「ばばばかなことを言うな!なっ、何故オレがお前の誕生日などのためにわざわざ地上へ出・・・はっ!」

カアァァァ・・・・!

「・・・・・・。」

ミーノスは目を丸くしてアイアコスを見つめた。

「アイアコス・・・あなたは・・・。」

「ちっ、違うっ!こ、これはお前の見舞いのために買ってきたもので!断じて今日のお前の誕生日のためなどでは・・・あああ!オレは何を言っている!」


(アイアコス・・・・・私の誕生日を覚えて・・・・・・・これは意外でしたね・・・。)


カッカ!と顔から火を噴いて押し黙ってしまったアイアコスに、ミーノスは緩く微笑んだ。

「くす・・・・あぁ、リンゴはやはり私が剥きましょう。私自らの手で。」

「!い、いやっ、それはダメだ!オレがやると決めた以上・・・。」

「いいえ、私が頂くリンゴは・・・。」

クイ

「!?」

ミーノスの指が曲がると同時にアイアコスの体が前のめりに倒れてゆく。

「なっ、体がっ!」

ボフンっ!

「“リンゴのような顔色”のあなたを頂きます。」

「―!ばっ、ばかやろう!何を言っ・・・や、やめろ、離せっ、うわあぁ!」

「ふふふ。」

ボトっ、カシャン・・・っとアイアコスの手からリンゴとナイフが落ち、ベッドは2人分の重みの音を立てて軋んだ。


「おっ、お前、病人ではないのかっ!こんなことをしたら悪化するだろう!」

「優しいのですね。ですがご心配は無用。私は不器用なあなたと違って上手に食べられるのでね。」

「オレはリンゴを剥く!」
 


「おや、剥きながらですか?そんなに器用だとは思いませんでした。失礼。」

「ちっ、違・・・っ!」

「フッ。」

カアアアア!!!

「ミ、ミーノス!!!」


「では、いただきましょう。―――・・・・・そうそう・・・・・アイアコス。」


「なっ、なんだっ!この・・離・・せぇっ!」


フ―――

耳元で囁く。



―――ありがとう―――




良い誕生日に・・・なりましたよ―――――













その後―――



「できました。あなたの守護星ガルーダです。」

「おお!見事だな!次だ次!」

「・・・・ゴホ。あー・・・あなたの笑顔を見ることができるのは元気の薬ではあるのですが、私は一応病人で・・・。」

ガサガサ

ぽい

「う・・・。」

「なんだ?リンゴならまだまだあるから心配するな。次はお前の守護星グリフォンが見たいぞ!」

(あぁアイアコス・・・そんなにワクワクした顔で私を見つめないで下さい。)

ミーノスはナイフと、5つ目のりんごを手に、華麗な手さばきでリンゴを彫刻し始めた。
 


シャリシャリ・・・

聞こえてくる新鮮な音に、ミーノスは小さくため息をつく。

「アイアコス・・・それは今作ったばかりのガルーダなのですが・・・。」

「ゴクン。あ?早く食べないと変色するだろう?ほら、さっさと作れ。」

(アイアコスは芸術を愛でるという心は持ち合わせていないのか・・・。・・・・・・・愚問でしたか。)

「できました。我が守護星グリフォンです。」

「おお!お前は本当に手先が器用だな!」

(その笑顔は反則です・・・アイアコス・・・。)

パクっ

シャリシャリ・・

「ああぁ・・・。」

ミーノスは頭を押さえる。

ガサガサ、ぽいっ

「さ!次だ!次を見せてくれ!」

「次の希望は・・・何でしょう・・・。」


ミーノスは青リンゴのような顔でふらふらしながらアイアコスの胸にもたれたまま、6つ目のリンゴを手に取った。











〜〜〜おわり〜〜〜

 

文=史々丸 挿絵=星野うり でお届けいたしました

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ミノたん、お誕生日おめでとう!

あのミーノスがため息をついている!(笑)でもアイコちゃんが大好きだから、頑張っているのだ!

“その後”は、ベッドの中です(笑)一応アイコちゃんが支えてあげてます。ふふ。
いつでもどこでも2人は一緒v(半強制だがな・・・ byアイコ)

ミノたん、いつまでもお幸せに!
史々丸さんに小説を描いてもらって私がカットつければ、ミノ誕に出品できるし、新作も読めるし一石二鳥と思い企画!!

半分冗談だったのですが…できてしまいました♪ ミノ誕と言いながら…アイアコスの方が出張っていますが…きっとミノもかわいいアイコが見れて満足なことだろう。

私も新作が読めてよかったです( ̄ー ̄)
カットでちょっと違う所は無視無視…。
では、ミーノスに乾杯♪


 
04/03/14