ASIA(O2) SHUMI no OHEYA |
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【CHAOS】 | |
B5サイズ・36ページ 2010年5月2日発行 \500 SOLD OUT |
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※R18本です 18歳未満の方には販売できません 1ページサンプル 星野うり |
小説・一部サンプル 暁 それは、いつもと変わらない朝のはずだった。 脳裏の奥で鳴り響く電子音が、次第にその大きさを増す。眠りを遮るその音を暫く鳴り響くに任せて、ツォンは漸くシーツの中から手を伸ばした。緩慢な動きで枕元を弄った手が、容赦なく電子音を鳴り響かせている対象物を捕らえる。指先の感覚が既に覚えているスイッチの場所を探り当てることは容易く、けたたましく鳴り響いていたその時計のアラームを止める。それから更に数秒ベッドの中で伏せていたツォンは、頭まで被ったシーツの中に手にした時計を引き込むようにして、その時刻を確認した。 起床時刻は、もう何年も変えていない。慣れ親しんだ時刻の起床は、それでも年々前日の疲労を僅かずつ蓄積しているかのようだった。寝起きの重い体を意志の力で引き起こして、バスルームへと向かう。洗面台の鏡に写った姿を何気なく目にすれば、未だ半分眠ったままであった意識が微かに覚醒する。 長く伸びた黒髪が乱れ、顔を覆った姿は、見慣れた自身の姿であるとはいえ、気持ちのよいものではない。緩慢な仕草で髪を掻き上げるも、クセのない髪はすぐにまた顔を覆うように振り落ちてくる。気付けば、この髪もだいぶ伸びた。ぼんやりと、今更ながらにそんなことを思いながら、ツォンは鏡に映る自身の姿を眺めやった。いつからか伸ばしていた髪には、当初それなりに意図するものがあったはずで。それは願掛けにも似た些細な切欠ではあったものの、そんな意味すら既に遠くなった今では、最早ただの不精で伸びているに等しい髪だった。切らない理由も、切る理由も明確でない曖昧さの中で、なんとなく伸び続けた髪はとうに腰の位置を越えている。切らないでいる理由を強いて挙げるならば、極身近な人間がなぜかこの髪を好き好んでいるからだろう。脳裏に思い浮かんだ顔を散らしながらバスルームへ身体を滑り込ませると、シャワーコックを捻る。降り注ぐぬるま湯を浴びながらシャンプーの容器へと手を伸ばしたツォンは、その中味が既に尽きていることに気付いて首を捻った。昨日使い切ってしまったのか、覚えはない。買い置きがあったはずだと、一度シャワーを止めて洗面台の戸棚を覗いてみるも、そこに目当てのものを見つけることはできなかった。買い置いておいたものも使い切ってしまったのだろう。有力な選択肢を潰された状態で立ち尽くしていれば、濡れた髪からポタポタと滴り落ちた水滴が床を濡らす。仕方なく再びバスルームへと戻ると、ツォンはそこに並んで存在しているもう一つのシャンプーに目を留め、じっと見つめた。 そういえば、これがあった。いつからか我が物顔でツォンの部屋のバスルームに存在するようになったシャンプーは、レノのものだ。迷う余地もなく、普段自分が使用しているものとは異なる銘柄のそのシャンプーを手に取ると、ポンプを押した。 バスルームを出て時計を見遣れば、予定外に時間がかかってしまったことを知る。濡れたままの髪をタオルで拭いながら、喉の渇きを覚えて何気なく冷蔵庫へと手をかけたツォンは、その中味を見つめて一呼吸の間固まると、開けたばかりの扉を閉ざした。髪を拭う手が思わず止まる。無言のまま更に数秒の間をおいてから、改めてゆっくりと冷蔵庫の扉を開ける。その中には、ミネラルウォーターのボトルがある。しかし、問題はその隣にあるものだった。見覚えのありすぎる形状のそれは、つい先ほどまで探していたシャンプーだ。手を伸ばせば、指先から冷えた感覚が伝わる。ありえない場所から、ありえない物を発見することになったツォンは、無言のままそれを取り出すと、眉間を寄せた。誰がシャンプーをこんなところに入れたのか。悩むまでもなく、考えられる可能性は限られる。こんな悪戯をするのはあの男以外いないだろう。長年来の部下の顔を思い浮かべて肩を竦めると、ツォンは手にした冷えたシャンプーを持ってバスルームへと引き返した。 続きは「CHAOS」にて |