ASIA(O2) SHUMI no OHEYA

 

  【Strawberry Candle】
B5サイズ・42ページ
2007年8月18日発行
\500
SOLD OUT


 

スピ受け仲間の猫家さんとの合同 エアギア本です。
左×スピ
です。 猫家さんの小説と、星野うりの漫画で、B5・P42のコピー本です。

スピの魅力を引き出すために左君とセットにしてみちゃいました!! だけど…あれれれ? 猫家さんの小説、左君も超かわいいですよ!! ひねくれっぷりが!! もちろんスピは言わずもがな!!

私の漫画の方は、左君がちょっと積極的ですが(スピがのらりくらりとかわすので…)、なんか出現数多いです…。 というか…猫家さんも私のも、左とスピしかほとんど出て来ない!! 左君とスピ好きの方におすすめしまーす!!

最終版はまたちょっと違う色の赤色です♪

SOLD OUT
完売・販売終了しました
ありがとうございました


<<アズキ色>>
終了

<<金赤色>>
終了


 漫画・1ページサンプル 星野うり

 
小説・一部サンプル 猫家さとる


 スピット・ファイアが起きるよりずっと前、まだ肌寒さを感じる時間に左は目を覚ました。体を起こし、真っ先にしたことは隣で眠るスピット・ファイアの存在を確かめることだった。剥き出しになった肩にシーツをかけ直してやった後、寝顔を見つめる。いまだ隣にこの人が存在しているのが信じられない。左はこうして寝顔を見つめる度に不思議な感覚に捕われる。
 手を伸ばし、頬に触れ、ようやくこれが夢ではないと知る。スピット・ファイアの存在を確かめた後、今度はどうしてこんなことになったのかについて思いを馳せた。
 昨日の夜、スピット・ファイアは左の下で嬌声を上げ、涙を流した。上気した頬はすべやかで、左は何度も唇を落とした。スピット・ファイアはその度に笑い、まるでキスのお返しをするように手を伸ばし、左の頬を愛おしげに撫でた。薄い暗闇の中、スピット・ファイアの細い腕は白く浮かび上がる。その手に手を重ね合わせる。手のひらに唇を押しつけると、また笑った。目蓋の裏に焼きついているのは手のひらと白い肌だ。脳裏を探り、映像を再生させる。一体、どれだけ唇を押しつけただろうか。白い肌に浮かぶ、赤い鬱血を左は思い出す。数時間だけだとしてもスピット・ファイアを所有していた印。
 左は赤い痣を残した。スピット・ファイアが左に残したものは肩の傷だ。今はもうそれほど痛まない、肩に出来た傷をゆっくりと指でなぞる。さすがに触れると痛みが滲んだ。この傷を望んでいた。初めて出会い、戦った時からずっと。自覚はなかったかもしれない。けれど、初めて会った時からこうなりたかったのだろう。もちろん、体の繋がりのみを求めている訳ではないが。
 傷から目を反らしスピット・ファイアを見つめる。……この人はそのことを知っていたのではないかと左は思う。

 チームを抜けてベヒーモスに所属している間、左はスピット・ファイアに会わないようにしていた。同じジェネシスという大きなチームの中にいたがそれだけだ。
 炎の玉璽を奪う。ただそれだけの為にスピット・ファイアの元を離れた。
 スピット・ファイアが子供っぽく振る舞うのは左の前でだけだ。その立場で満足すればいいと思う心が少なからずある。左はそう思う自分が許せない。だから、ジェネシス本部でかち合うことがあっても、視線も合わせず、言葉も交わさなかった。馴れ合えば、決意が鈍る。
 そう思っていた筈なのに。
 ベヒーモスと小烏丸との戦い。あれが一つの契機だったのではないかと思う。あの戦いでシムカが樹の下へ付くことを決め、それに伴い左の役割も変わった。スピット・ファイアがあの戦いで何を感じたのは分からない。ただ、表情が変わっていることに左は気付いた。どこがどう変わったのか、何を感じたのか、それは分からなかったが。
 戦いが終わって数日後のことだ。楽しげに笑いながら差し出された手紙を手に左は軽く眉を寄せた。シムカから渡された淡いピンク色の封筒は自分の手には不似合いに思えた。直感的にラブレターだとそう判断し、
「こういうものはご自分で渡された方が樹様も喜ぶかと」
 と伝えると、シムカは一瞬だけ目を見開き、それから可笑しそうに笑った。
「違うわ」
 では誰に? と問いかける前にシムカは口を開いた。
「スピ君に渡して欲しいの」
 眉間の皺を更に深くすると、困ったように笑う。
「駄目かな。大事なメモなの。お願い」
 大事なことなら自分で伝えればいいと思うのだが、シムカは笑うだけで折れる気はないようだ。
「分かりました」
 部屋に置いておくか、黒炎にでも頼めばいい。そうすれば会わなくて済むだろう。そんな左の気持を見透かしたかのようにシムカは言葉を付け加える。
「ちゃんと手渡し、してね」
「……ええ、もちろん承知しています」
 引きつった笑顔で答えると、シムカはやはり楽しそうに笑った。

 硝子の向こうにスピット・ファイアはいた。左は深く息を吐き出す。何があっても二人っきりで会うことは避けたかった。仕事場ならば手紙を渡した後、呼び止められることもないだろう。そう思って来たのだが、働くスピット・ファイアの姿を見ていると気が重くなった。
 営業用と思われるやわらかい笑みを浮かべ、客の相手をする姿はどうしてだか左の心を落ち着かない気分にさせた。どこか繕ったような笑顔を左は好いていない。自分に向けられるのはもちろん、誰かに向けられるのも嫌だった。スピット・ファイアが不意にこちらを振り向いた。左の姿を見つけて微笑む。その笑みが作り物ではないように思え、左は目を閉じ、その幻影を振り払う。
 足を踏み出し、店の中に入るとスピット・ファイアが歩み寄ってきた。途中、予約待ちと思われる女性客に軽く頭を下げる。
「珍しいね」
 左がここに来たのは数える程しかない。嬉しいと思っているのだろう、にこにこと笑顔を浮かべたままだ。左は微笑み返すこともせず、無言で手紙を差し出す。スピット・ファイアは軽く首を傾け、じっと左の顔を見つめてから、細い指で手紙を受け取った。
「シムカから?」
 手紙を封するシールは燕が描かれていた。左は無言のままで、それを肯定と受け取ったスピット・ファイアは手紙の封を切る。久しぶりに見るスピット・ファイアの顔は以前と変わらない。
「それでは」
「左君」
 静かな声で呼び止められて、左は顔を歪める。一つ息を吐き出してから、左は振り返った。
「ほら」
 ひどく楽しそうに笑いながら、スピット・ファイアは左の目の前に便箋を差し出した。便箋には女の子らしい整った文字が並んでいる。
「仲良くしなさい、だって」
 その文字に左は眉を寄せた。一体なんのつもりだ。不機嫌そうな左の表情に、スピット・ファイアは少し嫌な顔でくすくすと笑う。もしかしたら、二人して画策していたのではないかと思った。迷惑な話だ。目の前で笑うスピット・ファイアの顔に心がちりちりと灼ける。
 こんな顔は私にしかしない。
 そのことをスピット・ファイアは自覚しているのだろうか。きっとしているのだろう。左がそのことに気付き、どうすることも出来ない思いに囚われるのを見て楽しんでいるような気さえした。 
「後で電話するよ」
 手をひらひらを振り、スピット・ファイアは仕事に戻る。去っていく後ろ姿をぼんやりと見つめた。緊張していたのは自分だけだと思うとひどく腹立たしい。スピット・ファイアは女性客に、にこやかな笑みを向け、短い言葉を交わしている。左が来たことなど忘れてしまったように思えた。もし、一度でも振り返ってくれたらこんな気持には捕われなかったろう。
 だからここに来るのは嫌なんだ、左はちいさく拳を握り締めた。取り残された気分になる。それから、そんな気持になる自分が許せなかった。誰にも聞こえぬように舌打ちをし、その場を後にした。

 スピット・ファイアから電話があったのはその日の夜だった。
 まさかその日の内に連絡をしてくるとは思わず、左は焦った。どんな顔をすれば良いのか分からず、不機嫌な顔になってしまう。スピット・ファイアはそんな左に苦笑を零しながら、それでも快く部屋に招き入れてくれた。
 キッチンの方からグラスの擦れ合う音が聞こえる。その音を耳に入れながら、左は窓の外へ視線を向け続けた。星は見えない。窓硝子には部屋の様子が反射されて映っている。
「久しぶりだろう」
 窓硝子にスピット・ファイアの姿が映り、左はゆっくりと視線を向けた。久しぶりに来たスピット・ファイアの部屋は昔となにも変わらなかった。部屋に足を踏み入れ、安心したことは事実。
 だが、左は返事をせず、スピット・ファイアも気にした様子はない。
「左君は?」
 スピット・ファイアの手にあるのはワイングラスとワインだ。
「結構です。……車の運転もありますので」
 冷たく言い放つと、ちいさく肩を竦めた。それから目を細めて呟く。
「泊まっていけばいいのに」
 その言葉に意地悪い響きを感じてしまうのは気のせいだろうか。平静を装いながら、左は口を開く。
「それだけは勘弁願います」
 唇の端を持ち上げて伝えた言葉が意地悪く聞こえるように願った。言い返してくれることを望んだが、あっさり「そう」と呟いただけでスピット・ファイアは向かい合わせで座る。
「じゃあ、僕一人で飲んじゃうね」
 ワインの栓を抜き、ワイングラスに注ぎこむ。赤い色をした液体はグラスの中でゆらゆらと揺れた。一口、咽を鳴らして飲む。
「ん、おいしい」
 どこか子供っぽい印象を受ける一連の動作に笑ってしまいたくなるのを堪え、代わりに息を吐き出す。どうして来てしまったのだろう、この部屋に入ってから何度目になるか分からない問答だ。顔を見れば揺らぐことは分かっていたのに。昼間、手紙を渡すのに会ったのは仕方がない。けれど、電話が来て「僕の部屋においでよ。待ってるから」との言葉にどうして否定の言葉を返せなかったのだろう。
 待ってるから、その言葉の持つ響きが魅力的だったのは確かだ。そんな自分が嫌になる。態度の変わらないこの人も嫌いだ、左はちいさく唇を噛む。チームを離れると伝えた時、確かに彼は傷ついた顔をした。その表情に後ろめたさと安堵を感じたのは間違いだったのだろうか。寂しいと思っていてくれている。そうだ、私がいなくなるから寂しい。そう思って欲しかった。
 私はこの人の特別になりたい――左はそう意識する度に苛々とする。何よりも腹立たしいのはスピット・ファイアと共にいると嫌でも認識させられる事実だ。この人にとって自分は特別ではないのだと。誰がチームから抜けても、スピット・ファイアは悲しみを浮かばせるだろう。左は深く息を吐き出す。
「私はいつまでここにいれば?」
 自分でも嫌味な言い方だと思ったが、これでいい。スピット・ファイアはグラスに口をつけたまま、左を見つめ、一度だけ咽を上下させてワインを飲み込むと、そっとテーブルの上にグラスを置いた。
「この部屋にいるのがそんなに嫌かい?」
 ちいさな笑みを浮かべ、スピット・ファイアが問う。このぐらいで傷つくとは思っていない。けれど、顔は自然に歪んだ。
「ええ。最悪と言えます」
「僕だって君がこの部屋にいるのは嫌だねっ」
 フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向く姿に、呆気に取られ、それから腹が立った。呼んだのはあなたでしょうに、と叫びたくなるのを呑む込む。帰りますという言葉を吐き出そうとした瞬間に、スピット・ファイアが笑い出した。急なことにポカンと口が開く。
「なんてこと言ったら、君は立ち上がってしまうから言わないよ」
 絶対に、と嬉しそうな顔でスピット・ファイアは笑う。
「帰らないよね?」
 子供みたいな顔だ。左はそう言ってみようかと思い、止める。背もたれから浮いた背を、再度ソファに預けると同時に深く溜息を吐き出す。スピット・ファイアと一緒にいると溜息が増えるのは左の悩みだ。
 左に帰る意思がないのを確認すると、良かった、と笑う。その顔にまた溜息が出そうになり、無理矢理噛み殺した。
 それから数十分後、左の目の前には頬を赤くしたスピット・ファイアがいた。ふわふわと夢を見るような視線を左に向け、思い出したようにくすくすと笑う。何がおかしいのか左には分からないが、楽しそうな姿に肩を竦める。悪いことではないのだろう。
 スピット・ファイアは他愛のない質問と雑談を左に投げかけ、左は必要最低限の回答しか返さなかった。それでも機嫌を損ねることなく楽しげに酒を飲み続けた結果がこれだ。上半身をゆらゆらと揺らすスピット・ファイアは見て分かる程に酔っている。ちゃんと相手をしてやればこんなことにはならなかっただろう、と思ったが関係ないと自分に言い聞かせた。
「飲みすぎちゃったかな」
 へらり、と締まりのない顔で笑いながら、朱の差した頬を手のひらで押さえた。ふぅ、と体の熱を冷ますように息を落とすと、左の方へ視線を向ける。
「君と話すの久しぶりだから、はしゃいじゃったのかも……」
 照れ笑いと共に言われて、左は息を呑む。スピット・ファイアは欠伸を零し、そのままソファに横になった。やわらかいソファに顔をなすり付けるようにし、ゆっくりと目を閉じる。言葉の真意を吐き出さないかと唇を見つめていたが、赤く色づいた唇は軽く結ばれたまま、開こうとはしなかった。居たたまれなくなり目を反らす。 
 この人がはしゃぐ。私と話せたから。
 先ほどの言葉を頭の中で反芻させると目眩を覚えた。慌てて頭を振りかぶり、いつもの大して意味のない言葉だと言い聞かせる。思わせぶりな台詞はスピット・ファイアの十八番だ。その気もないくせに、勘違いするような言葉を吐く。
 そう思うのに、先ほどの言葉が真実であると思えてならない。そうだと思いたかった。再度スピット・ファイアの方へ視線を移す。変わらない姿勢に安堵を覚えた。動揺したところを見られるのは避けたかった。
 音を立てないように立ち上がり、ソファの横に立つ。スピット・ファイアの方へ手を伸ばした。一瞬だけ躊躇い、肩に手を置く。
「こんな所で眠るのはどうかと思いますが?」
 肩を軽く揺すったが、ちいさく咽を鳴らすだけだ。
「風邪を、ひきます」
 閉じられた目蓋はぴくりとも動かない。
「……帰りますよ」
 どの言葉にもスピット・ファイアは反応を示さなかった。どうやら本当に眠ってしまったようだ。左はちいさく微笑む。本当に子供のようだ。はしゃぎすぎた後に眠ってしまうだなんて。
 フローリングの床に腰を下ろし、寝顔を見つめた。眠っている状態でなら、肩肘を張らずに接することが出来る。閉じられたままの薄い目蓋、長い睫毛が赤く染まった頬に影を落とす。酒のせいかほんのりと色を付けた薄い唇は半開きで、白い歯がちらりと覗いていた。
 そろり、と指を伸ばす。心臓の鼓動が早くなる。どうか目を覚まさないで欲しいと願いながら、人差し指の腹で下唇を軽く押した。指にやわらかい唇の感触が伝わる。たったそれだけだ。たったそれだけのことに胸が詰まる。
 いつだって私はこの人に触れていたい。
 一度でも触れれば更に触れたくなることは分かっている。だから離れたかった。泣きたくなる。たったこれだけのことに心を乱される自分は滑稽だとも思う。手のひらを頬に当て、親指で唇をなぞった。指の下でゆっくりと唇が動いた。弾かれたように左は手を離す。

続きは「Strawberry Candle」にて