ASIA(O2) SHUMI no OHEYA |
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【Shadow play】 | |
B5サイズ・54ページ 2008年1月13日発行 \600 SOLD OUT |
スピ受け仲間の猫家さんとの合同
エアギア本です。今回は空×スピです!!
SOLD OUT
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小説・一部サンプル 猫家さとる 空はスピット・ファイアの部屋へ向かう。もう過去の絆は取り戻せない。今までは見て見ぬ振りをしてきた。しかし、明確に突きつけられた今、過去の情景は空の行動を制限することは出来ない。 扉を開けると薄暗い部屋に光が差し込んだ。スピット・ファイアは眠っているようで、空は笑みを零す。ベッドの傍らに立ち、手を伸ばした。すべやかな頬に手のひらを押し当て、撫でる。 「……スピ」 名前を呼ぶが、眠りに落ちているスピット・ファイアにその声は聞こえない。そろりと顔を寄せ、唇を重ね合わせた。昔、触れた唇の感触となんら変わりはない。あの頃と違うのは、気持が伴っているか、いないかだけだ。スピット・ファイアの唇はやわらかく、何度も啄むような口付けを落としながら、空は思う。一度だけ試してみようと。もし、スピット・ファイアが自分の元へいたいと願ってくれるのならば、なにもかも許し、傍に置こうと。その選択肢を選ぶ訳がないと分かっていても、試してみたい。 「ん……」 ちいさく咽を鳴らし、スピット・ファイアは身じろぎをする。ようやくのこと、口付けを取り止めた空は代わりに指先で唇を撫でた。出来れば酷いことはしたくない、と咽の奥でかすかに笑いながら思う。 次の日、大空には重い雲が垂れ込め、空気を重くしていた。 「嫌な天気だね」 窓から外を仰ぎ見たスピット・ファイアがちいさく呟くのを、他人事のように聞き、空はじっとスピット・ファイアの包帯の巻かれた右手を見つめる。自分が行った動作に因って負った怪我だ。苦い思いを感じながらも、喜悦をも感じさせる怪我。 「スピット・ファイア、話がある」 空の言葉に首を傾げ、スピット・ファイアは口を開く。 「空? いきなりなんだい」 「お前、もう一度俺のモンになれ」 目を細めて空を見つめたスピット・ファイアの表情には戸惑いが浮かぶ。しかし、それは一瞬で、全てを呑み込んだらしく静かに首を振るった。 「僕の意思はもう伝えた筈だ」 「……そか、変わらんのやな」 分かっていた答えに失望と同時に安堵する。おそらく、この状況でスピット・ファイアが頷いても、空は信じられなかったろう。 空は手を伸ばす。今度は躊躇うことなく手を伸ばし、スピット・ファイアの髪をそっと撫でた。 「空?」 スピット・ファイアはただ不思議そうに空を見上げる。 「ん、なんや」 空はただゆっくりと慈しむように優しくスピット・ファイアの髪を撫で続ける。スピット・ファイアは何を言えばいいのかも分からない様子で、黙り込んだまま空を見つめ続けた。 「……お前の顔は綺麗や」 唐突すぎる言葉に目を見開き、曖昧に笑う。 「急にどうしたんだい?」 「なぁ、スピ。お前、あの時……俺が初めてこの部屋に来た時、何を言おうとしとったんや?」 スピット・ファイアは空の言葉に首を傾げ、あの時のことを思い出そうと目を細めた。あの時、空が初めてこの部屋を訪れ、出て行こうとした時、スピット・ファイアは空を呼び止めた。そして、何か言いたげに口を開き、でも言えずに口を噤んだ。空は知りたい。あの時、何を伝えようとしていたのか。 「なんだろう、自分でもよく分からないよ。何を、言おうとしてたんだろうね」 そう呟いたきり、黙り込んでしまったスピット・ファイアの頬を撫でる。スピット・ファイアは為すがままになっていた。 「スピ、こっち見ろ」 空の言葉にゆっくりと顔を上げ、じっと見つめる。瞳にはこれから先、何があるのか分かっているかのように静かに紅い色が燃えていた。この紅は何があっても美しさを失わないのだと空は知っている。だから、思いっきり頬を張った。部屋に響く音は空の耳を心地よく叩く。 スピット・ファイアは痛みに顔を歪めたが、ただそれだけだ。 「俺のモンになれ」 出来るだけ冷淡に聞こえるように呟いては見たが、自然に頬の筋肉が緩んだ。答えは知っている。だからこそ、空は笑う。 「……協力しろってことだろう? 出来ないよ」 スピット・ファイアは静かに答え、それから痛みを確かめようとするかのように殴られた頬に軽く手を押し当てた。空は自分の手を見つめ、口の端を持ち上げる。手のひらに感じる痺れが心を高揚とさせた。 「誰がそないなこと言うた。俺のモンになれ、言うとるだけや」 その時、わずかにだがスピット・ファイアが眉を顰めた。空の言葉が理解出来ないのだろう。 「君は自分が何を言っているのか……」 「分かっとる。俺はお前を自分のモンにしたいだけや。空の玉璽を手に入れるんに、お前はもういらん。……そや、目的の為にはいらん、けど俺はお前が欲しい」 空の表情を窺うスピット・ファイアの顔に浮かぶのは不理解だけだ。短く息を吐き出し、手を伸ばす。思わず身を引いたスピット・ファイアだったが、逃げようとはしない。項に手を沿わせ、軽く引き寄せる。唇を合わせると、さすがに驚いたようで大きく目を見開いた。紅い色が揺れる。 「本気、なのかい?」 答えを探るように空の顔を見ていたが、やがて本気であると分かったのだろう、ゆっくり顔を伏せた。 「……好きに、すればいい」 震える声でそう呟く。 「抵抗せんのか?」 「抵抗、してどうなる? 僕はここから逃げ出すことは出来ないし、それに……この体じゃあ君に抗ったところで結果は見えてるじゃないか」 スピット・ファイアの答えに舌打ちをし、空は息を吐き出す。細い体を押し倒し、無理矢理に開いたところでスピット・ファイアは吐き出した言葉通り抵抗しないだろう。それでは駄目だった。空が欲しいのはスピット・ファイアそのものだ。体だけではない、心すら犯してしまいたい。その欲望を満たす為に空は口を開く。 「俺のモンになる、そう言え」 「好きにすればいいとそう言ってるじゃないか」 「あかん。好きにすればいいやない、俺のモンになると言え」 スピット・ファイアはちいさく下唇を噛み締める。空はベッドに腰を掛け、スピット・ファイアの顔を覗き込んだ。手を伸ばし、指で唇をなぞると、眉を寄せて空を見つめる。無意識ではあろうが、睨むような目だ。 「……言って、どうなる」 「スピ、お前が自分の意志で俺に好きにして欲しい言うんや」 整った顔に初めて嫌悪が浮かんだ。その顔だ、と空は唇の端を持ち上げて笑う。 「君は、僕を自分の物にしたいんだね?」 「そや」 「ならば僕の足を壊してくれ。足だけじゃない。何も見ることは出来ないようにこの目をくり抜いて、何もしゃべれないようにこの舌を引き抜いて、誰の声も聞こえないように鼓膜を破り、誰の手も掴めないようにこの腕を切り落として、そして、何も考えらないようにこの頭を壊してくれ。そうでなければ、僕は君の物にはならない。……なれない」 スピット・ファイアの言葉に空は口を噤んだ。そうしてしまおうか。自分の物になるのならば。目も口も耳も手も足も頭も、なにもかも壊して自分の物に。そうだ、一度、考えたことがあった。 けれど、空は燃えるような紅を愛していた。やわらかな声音で名前を呼ばれることも、名前を呼べば振り返ってくれることも、細い指がピアノの鍵盤を叩く様子もなにもかも。壊してしまえばそれらは失われる。足を壊してしまえば、しなやかな体が空を舞う姿も二度と見ることは出来なくなるだろう。だから、空はその選択肢を選べない。 「……そうしたって、僕の心は君の物にはならないのに、それでも欲しがるのかい?」 「ああ、そうや。お前の体も心も全部、俺が手に入れる」 どこか呆れたようにスピット・ファイアが笑みを零した。 「空、君は哀れだ」 真っすぐに見つめてくる目に浮かぶのは悲しみだった。その顔じゃないと空は舌打ちをし、スピット・ファイアから目を反らす。空が犯したいのは、離別の言葉を吐き出した、あの時のスピット・ファイアだ。曲がらない意思を押さえつけ、無理矢理に犯してしまいさえすれば、あの言葉をなかったことに出来る、そんな気がする。だから、空はあの時のスピット・ファイアを求めた。空を拒絶したスピット・ファイアを。 願ったのは同じ未来を見つめることだったのに、いま求めているのは違う未来を見つめるスピット・ファイアの姿なのは、考えてみればおかしな話だ。 「なんでお前は俺の思う通りにならんのや」 思わず呟いてしまった言葉に、スピット・ファイアは静かに答える。 「それは僕が僕だからだ」 その言葉は空の胸に染み込み、溜息を吐き出させた。分かっていた筈だ。違う人間であり、互いに理解し合えないことを。 実際のところ、すんなりと受け入れるとは思わなかったのだ。「好きにすればいい」そんな言葉が吐き出されることを予想していなかった。男に犯されることに対して、拒絶を示すだろうとそう考えていたのに、スピット・ファイアが出した答えはひどくあっさりとしたものだった。 不意に頭を過ったのは、あの時、スピット・ファイアの傍にいた男だ。眼鏡を掛けたその男の顔をぼんやりと思い出し、忌々しげに顔を歪める。男の視線には熱が籠っていた。空と同じ熱だ。だからこそ疑わざる負えない。空の知らぬところで通じ合ったのではないかと。 「あいつ、なんて名前やったか、ほら、眼鏡掛けた奴、おったろ」 「空……?」 急に話を変えた空にスピット・ファイアは眉を寄せる。 「俺に犯されとる写真、あいつに送りつけたったらどないな顔するやろな」 その言葉にスピット・ファイアの表情が固まった。 「何、言って……、いや、待ってくれ。左君は、生きてるの……?」 気にするところは生死なのかと思うと、胸に黒い感情が淀む。 「さぁ、知らんわ。行方不明っちゅーことになっとるようやで。お前含めてな。お前が生きとるんや、あいつも生きてるんちゃうか?」 スピット・ファイアの顔が一瞬安堵したように緩んだのを空の目は見逃さなかった。きっと生きている可能性を信じたのだろう。空には耐えられない。だが、生きていると信じるのなら空にとっては都合が良い。空は手を伸ばし、スピット・ファイアの頬を撫でる。不意に触れてくる手に怯えが滲んだのは何故だろう。好きにしていいと言った筈の唇を親指の腹で撫でる。 「俺に突っ込まれて泣いとる姿、見せてやりたい思うてな」 空の言葉にスピット・ファイアは顔を伏せる。先ほどと違い、その表情に浮かぶのは明らかに怯えだった。直接的な言葉が響いたのか、それとも写真を送りつけるという言葉が響いたのか、その両方か、空は考えながら更に言葉を続ける。 「あのホモ、お前のことアホみたいに好きやろ? 見ただけで分かったわ。どう思うやろなぁ、惚れた奴が他の奴に犯されとる姿……」 「空!」 鋭い声で名前を呼び、言葉を制した。スピット・ファイアがどんな答えを出すのか、空は黙って待つ。 写真を見たあの男はきっと傷付くだろう。それから怒りに捕われる。もしかしたら、助けようとするかもしれない。他国に身を寄せている空に、あの男が近づくのは難しいだろう。それでも、あの男は絶対に諦めない。スピット・ファイアと共に消えることさえ望んだ男だ。諦める筈がない。それでいい。目の前に現れたのなら、スピット・ファイアの目の前で息の根を止めてやろう。死なない程度に痛めつけ、目の前でスピット・ファイアを犯してもいい。 スピット・ファイアはどうすることも出来ないまま、顔を歪め、唇をきつく噛み締めている。 「ああ、なんやぁ。簡単なことやったんやな。そや、お前は自分が傷付くのは気にせん癖に、他の奴が傷付くと嫌な顔しとったなぁ」 「そ、空……」 震える声で名前を呼ぶスピット・ファイアに先ほどまでの諦めに似た雰囲気はない。泣き出しそうな顔には縋るような色さえある。空はスピット・ファイアの髪をこれ以上ないほど優しく撫でた。 「冗談や。俺がそないな酷いことすると思うか?」 スピット・ファイアは迷子の子供のような表情のまま、空を見つめる。信じられる訳がないだろう。空の顔にはいまだ愉悦を含んだ笑みが張り付いたままだ。スピット・ファイアの額に唇を押しつけ、空は優しく囁く。 「……少しだけ時間をくれたる」 安堵と不安を同時に浮かべたスピット・ファイアに満足を覚え、空は部屋を後にする。部屋に一人残されて一体どんなことを考えるだろう。それを思うだけで愉快な気持になった。 続きは「Shadow play」にて |
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