ASIA(O2) SHUMI no OHEYA |
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【Ace of Hearts】 | |
B5サイズ・40ページ 2008年8月15日発行 \600 |
スピ受け仲間の猫家さんとの合同
エアギア本第3弾です!! 今回は、黒スピと左スピのセット本!! 一粒で二度おいしい…つもりだったんですけどぉ〜。 なかなかムズかしかったです!! 黒炎って控えめすぎるんですものぉ〜!! 話をまとめるのに時間を食いすぎてしまって…。黒スピは初めてだからこちらに重きを置いていたのですが、いいとこを左に持っていかれた感じです!! しかも最初の2ページしか出ない空が出張ってますし…。でも、いろんな顔のスピが描けたから満足♪ 2008年 夏コミの新刊です!! イベントでは「8/15 コミックマーケット 74」初売りです!! 漫画・1ページサンプル 星野うり |
小説・一部サンプル 猫家さとる 電話が鳴った。お昼を過ぎて、日は傾いてる。携帯電話を手に取り、通話ボタンを押すと女性の声が耳に届いた。聞き覚えのある声だ。スピット・ファイアの店の従業員ではないだろうか。何度か話をしたことがある。店の子が電話をしてくるのは珍しい。胸を過る予感に、黒炎は眉を顰めた。 「あ、すみません。実は」 うちの店長が倒れて、との言葉が聞こえた瞬間、詳しいことも聞かずに、すぐに行きますと返答して外へ飛び出した。A・Tのロックを解除し、裏通りを駆ける。今までこんな連絡が来たことはない。スピット・ファイアが炎の王に返り咲いたここ最近、慌ただしかったことは確かだが、それが原因なのだろうか。知らぬ内に疲労を溜めていたのか。気付くことの出来なかった自分が不甲斐ない。 A・Tは小回りが利く分、車より速く辿り着くことが出来る。物の数分で店に辿り着くと、真っすぐにスタッフルームへと向かった。 「やぁ」 スピット・ファイアはソファに座っていて、黒炎の姿に顔を上げるとやわらかに笑った。肩に掛かっているコートは見るからに女性の物で、店の子に羽織らされたに違いない。電話をしてくれたのだろう女性が出てきて、 「早く連れて帰ってベッドに押し込んで下さい」 と言い出し、スピット・ファイアがちいさく肩を竦める。その仕草を目の端に留めるだけにして、 「そうします」 と言うとスピット・ファイアは、平気なのに、と小声で呟いた。スピット・ファイアの呟きを無視して、携帯電話を取り出す。車を持っているチームメンバーに事情を話すと、すぐに向かいますとの言葉が返された。電話を切った後に、ここに向かっている時に頼めば良かったなと思ったが、連絡を受けた時はそんなことすら思いつけなかったのだから仕方ないだろう。 すぐに向かうとの言葉通り、車は数分後に到着した。笑顔で飛ばしてきました! という男に頷きを返すと、スピット・ファイアが呆れたように言葉を落とした。 「有り難くないとは言わないけど、みんな過保護だ」 どこか不貞腐れた物言いに顔を見合わせ、目だけで笑い合う。この程度で過保護なんて言ってもらっては困る、と軽口を叩いてみようかと思ったがやめておいた。本気にされそうな気がしたからだ。 ソファから腰を上げたスピット・ファイアを支えようと手を伸ばすと、ぺち、と手のひらを叩かれる。 「一人で歩けるよ」 車まで辿り着くとスピット・ファイアはコートを脱ぎ、店の子に手渡す。 「コート、ありがとう」 「ちゃんと休まないと駄目ですよ」 「そうしないと怒られそうだ」 店の子は、そうですよ怒りますよ、と車に乗り込んだスピット・ファイアに笑いかけた後、黒炎の方を振り向き、 「お願いします」 と頭を下げた。 「もちろんです。お任せください」 恭しく頭を下げた後、車に乗り込み、後部座席のスピット・ファイアを振り返る。 「大丈夫ですか」 「うん。ちょっと目眩がしただけだから」 「その包帯は」 スピット・ファイアの手の甲から手首まで白い包帯が巻かれていた。 「倒れそうになった時、怪我しちゃってね。さっきの子が手当てしてくれたからこれも大丈夫」 手のひらを翳してひらひらと振って見せた後、 「少し、気が緩んでしまったのかもね」 と苦笑を零した。 もしかしたら、と思う。もしかしたら、左がいなくなってしまったことに原因があるのではないだろうか。スピット・ファイアが炎の王に返り咲くと同時に左はチームを抜けた。左がいなくなったことで心労が増えたことは十分に考えられる。 「……暫く仕事は休んでください」 「仕方ない、かな」 スピット・ファイアが休むことは店の子も了承していた。了承していたというより推奨していたと言った方が正しいだろう。すぐに無理をするから、と心配していたことを伝えると、スピット・ファイアは照れくさそうに笑った。 「みんなに迷惑かけちゃったね」 「いいんですよ」 むしろ迷惑をかけてもらいたいくらいだ、と声には出さず、黒炎は微笑む。視線を前に戻しながら、 「どうしますか?」 と問いかけた。 「マンションに帰りますか。それともビックバードに向かいますか。俺としては後者を望みますが」 ジェネシス本部ならば必ず誰かがいるし、何かあっても対応出来る。 「じゃあ、君に任せよう」 余計なことを言えば怒られるとでも思っているのか、しかしどこか嬉しそうにスピット・ファイアはそう答えた。 ビックバードに辿り着く前にシムカに連絡を取り、事情を説明すると、部屋を貸すことを心良く承諾してくれた。部屋に辿り着くと着替えをさせ、ベッドに押し込む。まるっきり子供扱いだと呆れるスピット・ファイアの額に手のひらを押し当て、熱を計った。 「少し、熱がありますね」 手のひらにじんわりとした熱を感じ、眉を寄せる。微熱ではあるが、油断をしたら悪化してしまうだろう。自分のことには無頓着なスピット・ファイアだからこそ過保護なくらいの扱いでいい。何もせずにゆっくり寝るよう言い渡すと、肩を竦めて、それでも頷いた。 「電話をかけてきます」 「誰に」 「アンタが倒れたって聞いてみんな心配してるんで」 「黒炎みたいに?」 「そうです。俺みたいに」 真顔で言ってみると、スピット・ファイアはそれはちゃんと伝えてあげなきゃね、と楽しそうに笑った。青ざめた形相で駆けつけた時のことでも思い浮かべているのだろう。 部屋を出て、携帯電話を取り出す。メールが何十件か届いているのを見て、眉を上げた。人のことを言えた義理ではないが、我がチームには心配性が多いようだ。メールには後で目を通すことにして電話をかける。 「滝沢か? スピット・ファイアは大丈夫だ。そうみんなに伝えてくれ」 「分かりました。あ、アイオーンにも連絡してしまったんですけど……」 「そうか」 左がチームに所属していた頃、まず最初に連絡がいくのは黒炎と左だった。その頃の癖がいまだに抜けないのだろう。左がいなくなってしまったことは少なからずチームに影響があるようだ。確かに毎日のように起こっていた言い争いがなくなったことは変な気分ではあった。スピット・ファイアに対等な口調で噛み付くのは左だけだったし、その度にスピット・ファイアは子供っぽい感情を露にしていた。左の前でスピット・ファイアの表情はころころと変わった。過去のことを思い出し、安堵していたことをスピット・ファイアは知っていただろうか。 眠りの森が壊滅して暫く、笑顔が消え、暗い顔ばかりしていた。半年すれば笑顔も戻ってきてはいたが、感情の起伏は少なかったように思う。それが左がチームに入り、成長していくにつれ、気を許すように感情を露にしていった。左に対してだけチームのリーダーとしてではなく、ただ一人の人間として接していたのではないか。だからあんなにも表情が豊かだった。スピット・ファイアは無自覚だったろう。左はそうではなかった。時折、左の顔には優越が窺えたから。だが、それはすこし前の話だ。日常からは掻き消えてしまった情景。溜息を噛み殺し、黒炎は口を開く。 「じゃあ、あいつにも大丈夫だと伝えてくれ」 きっと心配しているだろうから。思っただけで言いはしなかった。 「はい、分かりました」 電話を切り、部屋に戻るとスピット・ファイアは眠っていた。やはり疲れていたのだろう。整った寝息に安堵の息を吐き、傍らに座る。 左があのままチームを抜けずにいたらスピット・ファイアは倒れなかったのではないか。ふとそんなことを思う。左がチームに入った頃を思い出す。まだ幼さを残したあどけない顔立ちは、まぁ可愛いと言っても差し支えなかった。左はチームでは明らかに浮いていた。それはただ単に年齢の問題であったし、そのうちチームに馴染んでいった。おそらく左にしてみれば、チームに馴染むつもりはなかったのだろう。誰が見ても左はスピット・ファイアしか見ていなかったし、目指すところもスピット・ファイアただ一人だった。 なり振り構わずにスピット・ファイアを目指し、求めた。あの真っすぐさが眩しくて、微笑ましかったのは確かだ。やがて成長し、スピット・ファイアとコンビを組むに至っては素直に努力と熱意を認めざるえなかった。何が切っ掛けでコンビを組むに至ったのか、それはあまりよく覚えていない。気が付けばスピット・ファイアと左は背中合わせで戦うようになっていた。傍目からはどちらが強いのか競っているだけように見えただろうが、黒炎にはそうは見えなかった。 窓の外が薄暗くなってきた頃、足音が聞こえた。まっすぐに部屋に向かってきた足音は扉の前で立ち止まり、けれど、すぐに扉は開かなかった。黒炎はそれだけで扉の前に立つ人物が誰か知る。数分後、扉が開き、予想した通りそこには左が立っていた。不機嫌そうに寄った眉で、容易に心情が想像出来て黒炎は笑う。 「……スピット・ファイアは」 ベッドで眠るスピット・ファイアへ一瞬だけ視線を送った後、やはり不機嫌そうな声で左は問いかける。 「安心しろ。大丈夫だ。少し疲れているだけだろう」 「なら、いいんです」 眉間の皺が解けて左は安堵したように笑みを浮かべた。無自覚なのだろう無防備さに目を細める。だが、ふと見せた無防備さはすぐに影を潜め、無表情を取り繕った左は、 「それでは」 と帰ろうとする。 「もういいのか」 「ええ、近くを通ったので寄っただけですし」 「そうか」 苦笑しながら答えると、一瞬だけ眉を顰め、こちらを見たが何も言わず視線を戻した。扉に手を掛けたまま左は呟く。 「……スピット・ファイアに余計なことは」 「言わないでいてやるよ」 そう言ってやると、ちいさく息を呑み、口を開いたが何も言わず部屋を出て行った。 閉まった扉を見つめながら、昔のことを思い出した。昔の話だ。あれは左とスピット・ファイアがコンビを組んだ頃のことだったと思う。 「良くも悪くも素直だよね」 スピット・ファイアはそう左を評して、黒炎は笑いながら頷いた。左について語る時、スピット・ファイアはやわらかい表情になる。左の前では決してしない表情でスピット・ファイアはいつだって左のことを話した。それは黒炎だけが知っていることだった。 続きは「Ace of Hearts」にて |